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当店が中古自転車を販売しない訳

前回は、今後の価格の見通しをダラダラと書き綴りました。お付き合いくださり読んでくださった人に感謝です。

 

今回は、ちまたに溢れる中古自転車にどんな落とし穴が有るかを解説し、当店が中古自転車(特にカーボン製品)を再販しないかを説明したいと思います。裏話などお話しできる範囲でしますので長くなります、お時間のある時にお読みください。

 

まず最初に自転車の中古(特にカーボン製品)を自動車(車)の中古を同様に思っていませんか?

ここに大きな落とし穴があります。

なぜかと言うと、自転車の中古(特にカーボン製品)と自動車(車)の中古は構造上も法令も全く違います。

構造上の違いとは・・・

自動車のフレーム(骨組み)は、鉄を溶接して成型しています。事故の時に乗車している人を保護する構造になっています。

それに対し自転車のフレーム(骨組み)には、カーボン素材を成型しているケースが多くあります。乗車している人は保護する物は何もありません。

アルミ素材の自転車でもフロントフォークはカーボン素材が使われています。

 

このカーボン素材に潜むリスク・・・

一言に「カーボン」と言っても、品質にはたくさんのグレードがあります。紙と言っても再生紙と和紙では品質も価格も全く違いますよね。100均のハサミと鍛造されたハサミとでは切れ味が全く違うように、カーボンもホームセンターブランドのカーボンと当店で販売しているカーボンは同じグレードのものではありません。

生産・品質管理にも大きな違いがあります。

俗にいう「中華」は安い!とネット発信している人も居るらしいですが、それは「安いだけ」の話で、生産のクオリティーコントロールがユルユルの見た目が似たような物だからです。

カーボン製品は、カーボンシートを何枚も重ね合わせる積層構造になっています。この重ね合わせる製造工程で、カーボンシートの間に0.1%の空気の混入が有るだけで不良品としてクオリティー管理をしている物と、そんな事はお構いなしで似たような見た目の物が出来ればOK。この差が価格に反映されます。また使っているカーボン素材もピンからキリまで、ホームセンターブランドは、一番外側だけ見栄えの良いカーボン素材を巻いているケースが多くあります。コストカットはいくらでも出来るので、見た目でしか判断しない人を誤魔化すのは容易なんです。

 

では何故積層構造の中に空気が混在してはマズいのか。

まだリムブレーキが全盛時代の中華のカーボンホイールで、坂を下っている時にはブレーキを利かせます。当然ながらホイールとブレーキパットは擦れるのでホイールの温度はドンドン上昇します。そうすると、積層の中に空気が混在していれば膨張します。当たり前ですが。

結果どうなるか・・・。膨張した空気は行き場がなくなりつつ膨張を続け、接着しているカーボンの内部で最後には破裂。坂を下っている時に突然ホイールが爆発した。なんて事例を聞いたことがあります。

走行中に、しかも下り坂でいきなりホイールが爆発したらどうなるでしょう。顔面から路面に叩きつけられる想像するだけでゾッとしますよね。

また、カーボンホイールの効きが良くなる。とネット情報を信じ込み、正規のブレーキパットではないものをご自身で取り付けて、ブレーキパットのゴムが高温になって溶けてホイールに食いつき過ぎてロックして吹っ飛んでクラッシュした。なんで事例もあります。

ネットの書き込みを鵜吞みにされたのなら自己責任なので、メーカーも当店も責任は負えないのは当たり前の事です。使用方法を正しく理解出来ていない人が触れば、その分だけトラブルのリスクは大きくなります。

 

もう一つのリスク。

カーボン素材と言って、イメージしやすい物として「釣り竿」などがあると思います。

「しなり」があって「元の形状に復帰する」性質があり、そして「軽い」

自転車の場合、釣り竿ほどしならせると全く乗り物になりませんので、きちんと開発・生産管理ができているブランドは、カーボン素材の中でも剛性のある物も入れて、乗り心地や推進力の調整を開発費を掛けて行っています。またサイズの大小によってもパイプの長さが異なることから、剛性の強度を調整しています。

この形状記憶とも言える元の形状に戻る。これこそがカーボン素材の最大のパフォーマンスであり、最大のリスクと言っても良いでしょう。

通常使用している自転車に掛かる応力(体重を掛ける・ペダルを回す・コーナーを曲がるなど)に対して、各メーカーさんによって、どれ程の剛性を持たせるかによって特色を出しています。硬いがシャキシャキ走るイメージを受けるブランドもあれば、しなやかで体に優しくロングライドをするのが楽しくなるイメージを受けるブランド。

そのどれもが、カーボン素材のシートを積層して成型しています。

通常使用を前提に開発はされますが、通常ではない応力が掛かった場合(クラッシュや倒してしまうなど)の場合、この積層構造の内部破断や剥離があった場合は、強度が半分以下に落ちるとされています。

例えるなら、地球のプレートも積層構造ですので、地面に断層が出来たり、積層の中に地下水が溜まってしまう、と言えばイメージしやすいでしょうか。

地面は元の形状に戻ることはありませんが、カーボン素材には元の形状に戻ろうとする力があります。一番外側のフィニッシュカーボンの見た目がキレイであっても内部にどのような破損があるか視認検査だけでは全く分からない。これこそが最大のリスクなのです。

カーボン素材を扱う場合は、十分な配慮が必要になることはご理解いただけましたでしょうか。

 

さて、ここまで長々と「カーボン素材はデリケートに扱いましょう」と綴ってきましたがここからが本題です。

ある一つの実例をもとにお話をさせてもらいます。

ある日、1台のロードバイクが持ち込まれました。その自転車は異様な光景でした。あるべきフロントフォークが無い!

「どうされました?」

「修理してください」

「フロントフォークが折れてますけど、どうされましたか?」

「中古の自転車に乗ろうとしたら折れました」

「え?・・・」「気づきませんでしたか?」

「全く分かりませんでした」

「・・・修理されますか?」

「はい」

「他の部分にどれだけ衝撃が入っているのか分からないですが、フロントフォークだけ修理されますか?」

「はい。乗れよようになればいいです。」

(フロントフォークがこれだけ破損していたらフレームにも相当なダメージを受けているのは容易に想像できるけど)

「フロントフォークだけ交換しても他のところのダメージは分かりませんよ」「当方では責任持てませんがよろしいでしょうか?」

「はい」

「本当によろしいんでしょうか?」

「はい」

(この人のためにもこれは修理をお断りする方がよいかもしれないけど・・・)

「ご自身が乗車して下り坂でスピードが出ている時にこのような状況になっていたら大きな怪我につながっていたかもしれませんよ」

「・・・」

「もう一度お聞きしますが、フロントフォークの交換だけすればよろしいでしょうか?」

「はい」

(イチゲンさんで、どんな人なのかも分からない。これだけ念押しをしても修理しろ。と・・・?)

(修理を断れば断ったで、また何を言われるか分からないし・・・)

「一応修理はしますが、これだけ衝撃を受けた自転車であれば、今後の破損も考えられますが、ご自身の責任でご使用されることをご了承していただけますか?」

「分かりました」

生々しい画像になりますが、この画像を見るとカーボンシートを何枚も重ねて成型している事がわかると思います。

内部破断や剥離している様子も確認できます。

これだけ衝撃が入って破損しているにも関わらず外見では分からない。それこそが最大のリスクです。

中古で売られている物は、このような大きなリスクが有るものも混在しています。

「当然検査しているんじゃないの?」これは間違いです。カーボンの検査にはレントゲンはX線を透過してしまうため使えません。正確な検査を行うのであれば国内で2か所ほどしかない検査所で高額な費用を掛けて行わなければなりません。

カーボン層の中に0.1%でも空気が混入すれば、強度は大きく落ちます。

そこまで視認検査や打音検査では決して分かりません。内視鏡をフレーム内に突っ込んでみてもカーボン層の中は見れません。

ましてネットで中古を売っている場合、「ノークレーム」「ノーリターン」なんて言葉があれば、どんなジャンク品でも買った人の責任ですよ。となります。

「外観に傷なし。」「事故歴なし」本当でしょうか?立て掛けてた自転車が風で転倒しただけ。でも打ち所が悪ければ内部破断や割れたカーボンフレームの自転車を見たことがあります。

以前のオーナーがどのような使い方をしていたか分からない、100%安全であると言えないカーボン自転車。中古であればメーカーの保証もありません。

いつ顔面から路面に叩きつけられるか分からないリスクのある自転車を当店では販売することはありません。

ロードバイクに乗ったことのある人が「ロードの中古は絶対に買うな!」と言うのは、こういう知識を有しているからです。

昔から中古の自転車を買って、悲しい事故の事例を耳にするたびに心が痛みます。

楽しいはずの道具が、ある日突然 凶器となる。その人の人生を大きく変えてしまう。

そんな事があってはなりません。

これが当店が中古のロードバイクを販売しない理由です。

 

まぁ大丈夫だろう・・・。自分は大丈夫だろう・・・。確証も保証もない根拠に人生をかけるのであれば、それは自己責任でよいと思います。

ネットなどで買った中古自転車の修理には特に注意が必要です。当方に関係のない衝撃の入った破損に気づき修理した後の責任を押し付けてくる人がいます。そのため、修理自体をお断りするケースもあります。

いまだに「ネットで買いました!」誇らしげに修理に持ち込まれる人がいらっしゃいますが、ネットで購入されたものは自己責任が基本です。修理をお断りするケースに激怒されてもこちらも困ります。危ないものに手を出せない、当方で販売しているわけではないので責任は負えないのですから。

お近くに親しくされてる人で、ロードバイクを始めたくて、中古のバイクを探している人がいらっしゃれば、一言忠告してあげてください。

長々と綴りましたがお付き合いくださり、最後まで読んでいただきありがとうございました。